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D-0002 回覧板は当日中に次のお宅へお回しください

町内回付物・不達照合メモ

観測期間

2024 年 9 月下旬 2025-02-08 [反復]

// 本文

霧野三丁目の一部で、町内会の回覧板に挟まれる月次の町内会だよりに、配布時点では確認されていない欄が後から現れる、という照合結果が残っている。欄の見出しは「お悔やみ」と読めるが、記載された人物について死亡の事実は確認されていない。むしろ、名前が載った後の数日間に体調不良や転倒、原因のはっきりしない欠勤が続いた、という順序で語られている。

最初の記録は 2024 年 9 月下旬のものと思われる。班長を引き継いだ世帯が、戻ってきた回覧板の余白に知らない欄が増えていることに気づいた。欄には同じ班の高齢男性の氏名と年齢らしき数字が印字されていたが、家族は「字が一つ違うので別人だと思った」と話していたという。その男性は三日後から寝込み、以後しばらく外出していない。死亡届や葬儀の記録は見当たらないが、数名の住民は「もう香典を包んだ気がする」と述べている。

回覧板は市販の青い合皮製で、角に古い町内会名のシールが重ね貼りされている。紙面そのものは家庭用プリンタで出力された一般的な連絡文で、資源ごみの当番表、防犯灯の交換予定、敬老会の写真募集などが並ぶ。異常が確認されるのは、その下部余白に限られるらしい。欄は紙を継ぎ足したようには見えず、最初からそこに組まれていたように行間が詰まり、周囲の文章が少しずつ短くなる。

2024 年 11 月の回覧では、班内を二巡させたところ、戻るたびに氏名が一つずつ増えたとされる。二巡目に載った女性は、欄を読んだ翌日に自分の名前だけが旧姓で書かれていると訴えた。その後、家族のうち二人は彼女の旧姓を「ずっとそのままだった」と話し、別の一人は現在の姓を思い出せなくなった。戸籍や保険証の記載に変化はなかったが、食卓の箸袋にだけ旧姓の印字が残っていたという。

回覧を止める試みも行われたらしい。ある世帯が班長へ返却せず玄関の靴箱にしまったところ、翌朝、同じ文面のコピーが隣の世帯の郵便受けに入っていた。コピーにはお悔やみ欄がなく、その代わりに紙の右下へ小さく「未回覧」とだけ印字されていたとされる。止めた世帯の住人は、その日から町内放送のチャイムを聞くたびに、まだ夕方ではないのに線香の匂いがすると記している。欄を黒ペンで塗りつぶした回もあったが、次に戻ってきた紙面では、塗りつぶしの形が小さな喪章のように整っていたという。

現象が紙面の印刷や差し替えだけで説明できるかは不明である。複数の世帯が同じ紙を見ているにもかかわらず、欄の有無や氏名の読み取りが一致しない例がある。同じ版面をスマートフォンで撮影しても、撮影者によって欄が写る場合と写らない場合があり、写った写真は、翌日になるとファイル名の日付だけが前日に戻っていたとされる。一方で、欄を見た者が増えるほど、記された人物の不調が町内の共通認識になっていく傾向も見える。誰かが先に亡くなったことを紙が知らせているのではなく、紙に載った名前を、町内の目が少しずつ弔っているようにも読める。

2025 年 2 月 8 日時点で、青い回覧板は別の新品に交換されたとされる。ただし、古い回覧板を処分したはずの集積所で、雨に濡れた町内会だよりが一枚だけ見つかっている。下部余白は破れており、欄の有無は確認できない。破れた縁には、薄い紫のインクが乾いた花粉のように残っていた。

観測例

関連整理票

// メタ情報

由来
不明
整理日
2026-06-14
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