F-0006 青い回覧板を預かった後の手紙らしきもの
封筒表書き一部欠落/便箋二枚
- 形式
- letter
- 時期
- 2024年11月下旬頃
- 状態
- 一部欠損
- 出所
- 復元 — 差出人名は便箋末尾にあるが、封筒の宛名と消印は水濡れで判読しにくい
// 本文
真紀へ
前略。寒くなってきましたが、そちらは風邪などひいていませんか。こちらは昼間だけ日が出るとまだ少し暖かく、庭の南天が赤くなってきました。お父さんの膝は相変わらずで、階段を下りるたびに大げさな声を出しています。
電話でも言おうと思ったのですが、夜になるとどうも変な音が入るので、久しぶりに手紙にします。たいしたことではないのだけれど、書いておいた方が自分でも落ち着く気がします。
今月は三丁目第六班の回覧をうちで少し預かりました。青い合皮の古い回覧板です。角のところに前の町内会の名前らしいシールが残っていて、その上から今のシールが貼ってあります。あなたが小学生のころにも、たぶん同じようなものが回っていたと思います。
町内会だよりには、資源ごみのことと、防犯灯の交換の日、それから敬老会の写真を集める話が載っていました。いつもの紙です。ただ、下の余白に小さく「お悔やみ」とあるように見えて、はじめは印刷を間違えたのかと思いました。そこに近所の方のお名前が一つあったのですが、一字だけ違っていました。だから別の方のことかもしれません。年齢の数字も、七なのか一なのか、紫がかった薄い字でよく見えませんでした。
お父さんに見せると、そんな欄はないと言います。私が指で示すと、そこは資源ごみの文章の続きだと言うのです。たしかに、もう一度見るとそうも読めます。ただ、目を離して湯呑みを取ってから戻ると、やっぱり下に小さな四角い欄があるように見えました。紙の端が湿っているわけでもなく、継ぎ足した様子もありません。
隣の奥さんに聞いたら、「ああ、あれね」と言いかけて、それから急に、見ていないと言いました。見ていないのならそれでよいのですが、夕方になってから香典袋を買っておいた方がいいかしら、と言うので、誰の分ですかと聞いたら困った顔をしていました。亡くなったとは聞いていません。少なくとも、回覧に載っていた方は昨日も門のところにいらしたように思います。ただ、帽子を深くかぶっていて、こちらから声をかけませんでした。
その後、班長さんのところへ返しに行くと、玄関で「もう一回だけ回すことになった」と言われました。なぜかは聞きませんでした。班長さんも少し疲れている様子で、夜中に電話が鳴ると言っていました。留守番に残っているのは、誰かが紙をめくるような音だけだそうです。いたずらでしょうか。最近はそういう電話もあるのかもしれません。
二巡目で戻ってきた紙には、名前が二つに増えていました。増えた方は、旧姓で書かれているように見えました。ご本人はそれを見て「懐かしい」と笑っていたのですが、あとで娘さんが、母は結婚してからずっと今の姓だと言っていました。私はその場でどちらも正しいような気がして、うまく返事ができませんでした。変ですね。長く住んでいると、昔の名前と今の名前が重なって覚えられることもあるのでしょう。
お父さんは、もう余計なことを言わない方がいいと言います。そうかもしれません。でも昨日、資源ごみの日の案内が一行短くなっていました。前に見たときは「朝八時半までに」とあったはずなのに、今は「朝までに」だけになっています。私の見間違いならよいのですが、回覧板の青い表紙を閉じると、紙の下の方で何かがまだ乾いていないような匂いがします。インクというより、古い学校のプリントの匂いに近いです。
もしそちらに、うちから変な知らせが届いたら、すぐ返事をください。お悔やみの欄にお父さんの名前はありませんでした。私の名前も、たぶんありません。ただ、今朝もう一度見たとき、私の名前によく似た字があったような気がして、眼鏡を取りに行って戻ったら、そこは黒く塗ったようになっていました。誰かがペンで消したのかもしれません。形が小さな喪章みたいに整っていて、そんなことを思う自分が嫌になります。
この手紙は明日の午前中に出します。念のため、町内会だよりのコピーを一枚入れておきます。下の方は見なくていいです。もし何も写っていなければ、それで安心です。
草々
母より
追伸 昨夜、うちにも一時過ぎに電話がありました。一度きりで、出る前に留守番電話に切り替わって、やはり紙の音だけが入っていました。お父さんには言っていません。私はその音を聞きながら、誰かが順番に名前を探しているようだと思ってしまい、[以下欠落]
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