D-0006 まあだだよ、もういいよ、ここにいるよ
聞き取り控・団地二丁目公園
観測期間
2026 年 5 月の連休明け頃 〜 2026-07-08 [群発]
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この整理票は、学童クラブの日誌の写しと、指導員および保護者への聞き取りから組成された。公園は相模原市内の県営団地のあいだにある小さな児童公園で、すべり台と砂場と、外周に沿った植え込みのほかには何もない。住人からは二丁目公園と呼ばれている。
最初の記録は 5 月の連休明けにある。鬼をした二年生の子が、迎えの時間に、隠れたのは四人なのに、まあだだよ、は五つあった、と指導員に話した。困っている様子はなかったといい、その日の日誌には、声がかぶっただけだろう、と遊びの欄に一行だけ書かれている。
同じ話は 6 月の末までに十数件になった。返事を数えているのはいつも子どもたちのほうで、隠れたのが三人の日も六人の日もあり、多いと言われる数はどの話でも一つだった。子どもたちはむしろ面白がっていて、聞き取りに答えた一人は、いちばんかくれんぼの上手い子がいる、と言っている。書き留めるうちに気になりだしたのは、指導員たちのほうだった。
全員を見つけ終えたあとに、植え込みの奥からもう一度だけ返事が返った日が何日かある。見に行っても誰もいない。ただ、しゃがんだ子どもの高さに、草が内側へ倒れた跡が残っていたという。
話がまだ数件だったころの 6 月のはじめ、指導員の一人が日の落ちかけた公園で、一人で、もういいかい、と声に出して確かめている。返事はなかった。ただその翌日から、この指導員の取る点呼だけが一人多く数え間違う日が続き、本人の申し出で点呼の当番から外れた。
一度だけ、返事が足りない夕方があった。6 月の半ば、五人が隠れて、まあだだよ、は四つだった。隠れていた子の一人は、ちゃんと言ったのに、と泣いて帰った。どの子の声が数に入らなかったのかは、確かめられていない。
聞き取りに応じた古くからの住人は、この公園で同じ問いかけが何十年も繰り返されてきたことに触れ、積み重なった問いが、いつのまにか答える側を育てたのだろう、と話している。整理の過程では、別の読みも書き留められた。もういいかい、は、誰の名前も呼ばない。隠れている者、という役に宛てた問いだから、隠れてさえいれば、なにが答えてもかまわない。
7 月に入って、学童クラブはこの公園でかくれんぼをしないよう子どもたちに言い渡した。どこまで守られているかは分からない。それからも、誰も遊んでいない日暮れの公園で、もういいかい、とだけ聞こえた、という話が近隣から寄せられている。返事をした者は、まだいない。
観測例
- F-0020 manuscript 完全 かくれんぼのことを書いた作文
(学級文集の綴りの一枚から写されたものとされる。表題と組の記載は原文のまま) かくれんぼ 三年二組 ぼくは、かくれんぼがすきです。日よう日に、こうえんで四人でかくれんぼをしました。 ぼくはうえこみのおくにかくれました。う…
- F-0022 manuscript 完全 もういいかい、の文句を集めてまわった帳面
(一冊の大学ノートから写されたものとされる。ここに写すのは終わりに近い数葉で、日付は原文のまま) 八月九日 晴 熊谷から秩父線で皆野。橋のたもとの店で西瓜を馳走になる。 媼(七十二)に、かくれんぼの文句を訊く。もういいか…