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D-0005 退勤時は複合機の電源をお切りください

複合機夜間出力・浜松町十一階

観測期間

2025 年 11 月下旬 2026-02-03 [反復]

// 本文

浜松町駅に近い賃貸事務所の十一階で、朝いちばんに出社した事務員が、共有複合機の排紙トレイに残った紙の束を見つけている。事務所は平日十九時すぎにほぼ無人になり、複合機だけがファクス受信のため待機したまま残されていた。紙面には時刻と、席順から付けたらしい略称が並び、短い発話が逐語で記されていた。事務員は誰かの議事録の刷り残しと思い、給湯室の棚に置いたという。その日の十時すぎ、打ち合わせの席で自分が空調の効きについて口にした文句が、朝の紙面の三行目と同じ言い回しだったことに気づき、発言の途中で黙った、と後のメモに残っている。

紙面は議事録に似ているが、通常なら書き残さない細部を含む。「沈黙」「何かを置く音」「廊下側で笑う声」といった行が、発話と同じ調子で挟まれている。複合機の印刷履歴にジョブ名は残らず、カウンタの枚数だけが夜間に増えていた。保守業者は紙詰まり解除後の自己診断印字として処理していた。紙面と会話の一致は、説明されないままになっている。職員のあいだには、ファクスを待って夜どおし起きている機械が、翌朝のぶんまで先に何かを受けているのではないか、という言い方が残っている。機械が受けているのか、紙を読んだ者がその通りに話してしまうのか、どちらが先なのかは突き合わせても決められていない。

最初に紙を見つけた事務員は、以後、始業より早く出社するようになったとされる。誰より先にトレイの紙を回収し、読まないまま二つ折りにして封筒へ入れ、机のいちばん下の抽斗に鍵をかけて溜めていった。理由を聞かれた際には、読むと、その通りに喋ってしまう気がするから、とだけ答えたという。封筒は月末ごとに自宅へ持ち帰られたらしく、その後の行方は分かっていない。

午前九時十七分前後の発言は、多くの朝、二重に印字されていた。ただ、片方が出ずに一行だけで済んだ朝も一度あった、と同じメモにはある。片方には出席者の略称が、もう片方には誰も座っていない窓際の席番号が振られている。その席は前年の配置換えから使われていない。該当時刻の会議で、出席者のひとりが話を途中で止め、窓の外を見たまま数秒黙っていたことが、別の職員のメモに残っている。本人は後になって、誰かに相槌を打たれた気がした、とだけ話したらしい。

複合機は一月の終わりに入れ替えられ、現象は止まったとされる。ただ、旧機種で使い残したコピー用紙を新しい機体に装填した朝、一度だけ同じ体裁の紙面が出力された。時刻だけが並び、発話の欄はすべて空白だった。回収を続けていた事務員はその紙を封筒には入れず、細かく破って持ち帰ったという。彼女はいまも、最後に退勤するとき複合機の電源を落としてから帰る。ファクスが夜間に受けられなくなったことを、指摘する者はいない。

観測例

// メタ情報

由来
不明
整理日
2026-07-05
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