/var/log/archived/d-0001/f-0001/
F-0001 届かなくなった郵便についての手紙
霧野・手紙断片 No.1
- 形式
- letter
- 時期
- 1998 年頃
- 状態
- 完全
- 出所
- 不明 — 差出人欄は空白。封筒の消印は判読できず、縁にわずかに紫がかった滲みが残る。
// 本文
拝啓
朝夕はめっきり冷え込むようになりました。いかがお過ごしでしょうか。
橋のたもとでお待ちした件は、もう気にしておりません。行き違いは誰にでもあります。ただ、あれからひと月ほど、少し困ったことが続いておりまして、あなたにだけ書き留めておこうと思いました。
このところ、私宛の郵便がほとんど届きません。あなたからのお返事だけでなく、役場からの葉書も、親戚からの便りも、ぱたりと来なくなりました。郵便局へ伺いましたら、窓口の方が帳面をしばらく繰って、この番地はお預かりがありません、とおっしゃいました。控えをお見せしても、同じお返事でした。番地はここに間違いなくあるのに、帳面の上にだけ、ないようなのです。
昨日は町内会費の集金の方が見えたので、名簿を見せていただきました。私の家の行に、鉛筆で細い横線が一本、引いてありました。消し忘れのような、うっすらとした線です。上と下のお宅には引かれていません。先月も引かれていたのか、どうしても思い出せません。集金の方は気づいておられないようでしたので、私も何も申しませんでした。あの線のことを口に出すと、かえって確かなものになってしまう気がしたのです。
この手紙は局には出しません。橋を渡って、直接お宅の郵便受けへ入れておきます。夜のうちは霧が出ますから、朝になってからにいたします。
もし私からの便りがしばらく途絶えても、どうか気に病まないでください。届かないだけで、こちらは何も変わりなくやっております。
敬具